皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「皇太子妃になれないって言われて、泣いてるの?」

アルキメデスの問いに、私は慌てて袖で涙を拭った。

「だから、殿下との恋なんてするものじゃないんだ。」

突きつけられた言葉は苦しくて、反論できなかった。

そんな私を、彼はそっと抱き寄せた。

「アルキメデス……」

広い肩に頬が触れた瞬間、ふわりと漂う香りに包まれる。

戦場を駆ける近衛の男らしさと、幼い頃から変わらぬ優しさを感じさせる匂い。

思わず胸が詰まった。

「俺にしとけば、泣かなくて済むんだ。」

低く落とされた声は、諭すようでいて切なさに満ちていた。

「でも……」

唇を震わせる私に、彼は遮るように言葉を重ねる。

「でもじゃない。今からでも、殿下の夜伽は止めるんだ。」

強い腕に抱かれ、抗うことのできない安心感が広がる。

その優しい香りに包まれながら、私は心の奥で揺れていた。
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