残念令嬢、今世は魔法師になる
「ねえ、ミレアはどうなの?」
「へっ⁉」

 急に話を振られて、思わず変な声が出た。

「最近、王太子殿下と一緒にいるところが噂になっているわよ」
「ち、違うよ! あれはただの偶然で、特に意味なんてないし……むしろ、ああいう噂はほんと困るよ」
「あら、じゃあ本当にいい仲ではなかったのね?」
「当たり前だよ。絶対にないから。そもそも身分が違いすぎるし」
「でも、ミレアは伯爵令嬢でしょう。婚約者候補になれなくもないわよ」
「お断りします! ていうか、そもそも恋が何かもよくわかんないし」

 私の言葉にみんな「ええ⁉」と声を揃えた。

「今まで好きになった人いないの?」
「憧れの人とか、胸がきゅんってなる人とかいない?」
「夜も眠れないくらい彼のことを考えちゃったりとか」
「彼と結婚したいって思ったり」

 私が「ないよ」ときっぱり言うと、全員が目を丸くして驚いた。

 父の命令で好きでもない王太子と婚約させられて、彼に婚約破棄されたあとも父の命令で辺境伯に嫁がされ、そこでも夫に放置され――。
 自分から誰かを想ったことなんて一度もない。

< 112 / 236 >

この作品をシェア

pagetop