残念令嬢、今世は魔法師になる
 タルトでお腹を満たしながら、きらめく琥珀色のジュースを飲んで、噴水広場で魔法使いのショーを観た。
 派手な花模様の衣装を着た女性が、虹色のガラス玉を両手で器用に投げる。途中で女性は火魔法を使ってガラス玉を溶かし、可愛いウサギやキツネなどの形になったら水魔法で火を消す。雫できらめくガラスの動物は光の加減で虹色に輝き、観客たちの拍手がわいた。

 本当は楽しいショーのはずなのに、私はそれを見て少し切なくなった。
 これと似た光景を眺めながら鬱々とした気持ちで通り過ぎた記憶が少しばかり思いだされてしまい……。

「えっ……?」

 私の目の前を、私が通り過ぎた。
 何が起こったのか一瞬わからず、目を見開いたまま硬直した。
 私の目線の先に、思いもよらない人物がいたのだ。

 どうしてカイラがここにいるの?

 似ているなんてものじゃない。漆黒の長い髪も紅い瞳も、なんなら日常的に来ていた黒いドレスも、当然顔もカイラそのものだった。
 世界がふっと静まり返った気がして、祭りの喧騒が遠のいていく。
 私の鼓動はどくどく鳴り響いた。

 落ちつけ、落ちつくのよ。でも、あれは若いときの私の姿。

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