「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 二人は女学生に戻ったように、きゃっきゃっと楽しくお互いの爪を見たりしている。

 善子が珠子の爪を磨きはじめた。

 そのとき、
「こんにちはー」
と通りから声がした。

 振り返り見ると、黒い法被を着た若い男が立っていた。

 法被の襟には牛乳屋の屋号が入っている。

「どうかしたんですか?」

「ああ、いえ。
 うちのお嬢様が珠子さんと話してらっしゃるので」

 恐らく、珠子の知り合いだろうと思い、山内は、そう言う。

 ひょいと彼は中を覗いた。

 珠子は爪を磨かれると、ぞわぞわっと来るようで、顔をしかめていた。

「……あれはなにをやってるんですか?」

「えーと、確か、磨爪術(まそうじゅつ)です」

 今で言うネイルだ。

 日本にも、古代からネイルはあったのだが、花の汁などで色をつけて爪を美しくするのが主だった。

 それが近年、西洋から爪を磨く技術が入ってきて、塗らなくても爪を美しい状態にするのが流行っていた。
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