「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 珠子が公衆電話こっち、と指で示してある黒い看板を見つめて言うと、晃太郎が、

「……かけてみるか、お前の家に」
と言い出す。

「……誰か出たらどうするんですか」
と珠子は青くなる。

「なにか棲みついてそうだもんな、あの古書店」
と晃太郎は笑っていた。

 夕暮れの駅は旅に向かうらしい家族連れの異国の人などもいて、活気に溢れている。

 その家族連れを見ながら、晃太郎が言った。

「そろそろ暑くなるから、浴瀑場(よくばくじょう)とかに行ってもいいな」

 浴瀑場とは滝のシャワーを浴びられる施設で。

 このころ、料理店や温泉地に人工の滝を作るのも流行っていた。

「ホタル狩りも花火もいいな。
 お前をいろんなところに連れていってやりたい」

「晃太郎様……」

「……はぐれるなよ、珠子」

「はい」

 珠子の目を見つめ、晃太郎はもう一度繰り返す。
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