「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 だが、すり替えるといっても、今から、晃太郎が望むような手紙を書けるかと言うと――。

 どんな手紙だったら、正解だったかな、と思う珠子の前で、真面目な晃太郎は、真面目に考えていた。

「まあ、珠子は英語が話せるようだから、なにか仕事があるかもしれないが……。

 高平にでも訊いてみようか」

 いえ、ほんとにお仕事の心配をしてくださらなくてもいいんですよ、と珠子が苦笑いしたとき、晃太郎が言った。

「でも、俺は君が働くのは反対だな」

「え? 何故ですか?」

「……みんなが君を見るじゃないか」

 晃太郎が赤くなって言う。

「だ、誰も別に私のことなんて……」

「次郎さんに連れ去られたと聞いたとき、息が止まったよ。

 まあ、珠子を見たら、誰しもが連れ去りたいとか思ってしまうんじゃないかと思うんだが。

 次郎さんは行動力があるからな」

 そんな莫迦な……。

 あなたの中の私はおかしいですっ。

 今すぐ、ここから逃げ去りたいっ。

 晃太郎様の思う私と実際の私が違い過ぎますっ、と慌ててキョロキョロする珠子を両親も大将も笑いながら見ていた。

 


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