「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
両親は先に帰り、晃太郎と珠子はしばらく波止場から海を眺めていた。
港に碇泊している船の灯りが夜空に映えて綺麗だった。
まだそんなに街に灯りもない時代。
ぽつぽつとしか見えないガス灯の灯りが星座のように煌めいて見えた。
「素敵ですね」
と珠子は振り向き、微笑んだが、晃太郎は笑わなかった。
「…君が連れ去られたと聞いたとき、心臓が止まるかと思った。
間に合うわけもないのに、仕事を放って列車に飛び乗ろうかと思った。
でも――」
でも? と珠子は晃太郎を見つめる。
「でも、信じようと思ったんだ。
君はきっと大丈夫だと――」
「……晃太郎様」
晃太郎は珠子の手を握る。