「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「君が例え誰かに無理やり自分のものにされそうになっても。

 俺は信じているから、

 君と――

 君の投げ技と、

 ピストルを」

 ……信じるところが違います。

 私の気持ちを信じてください、と思いながら、珠子はバッグからひょいとピストルを出した。

「これですか?」
と晃太郎に見せる。

「異国へ行く大型の豪華汽船にはいろんな人が乗りますから。
 犯罪者でもいたらいけないので、持ってったんですよ。

 次郎さんも守って差し上げねばと思ったんですが。

 ……次郎さんが人攫いをする犯罪者だったとは」

 冷ややかに言う珠子の瞳に迷いはない。

 次郎がここにいたら、
「……思いとどまってよかった」
と胸を押さえ、呟いていたことだろう。
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