「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「……あ、あの、晃太郎様。
 迎えに来てくださってありがとうございます」

 嬉しかったです、と俯き言うと、晃太郎が、

「……珠子、手の甲にキスしてもいいか」
と訊いてきた。

「え?」

「次郎さんに遅れをとりたくない」

 さっき、父が次郎が別れ際に、珠子の前に(ひざまず)き、手にキスしていったとしゃべったのだ。

 いや、なんか、改めて言われると照れるんですけど、と思う珠子の手を晃太郎はそっととった。

 珠子を見つめ、その唇に触れてくる。

 手はただ、握っていただけだった。

 晃太郎が離れたあと、珠子は言う。

「……晃太郎様、そこは手の甲ではございません」

「……ほんとうだ。
 すまない。

 港の灯りに照らし出されたお前が夢のように綺麗で。

 手の甲にしたつもりだったんだが」

 次郎さんなら言い訳だが。

 この人の場合、素だからな……と思ったとき、晃太郎が少し迷うような顔をして言ってきた。
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