「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 あれから十年。
 池田の方は家の勧めもあり、見合いして結婚したが、次郎はまだ独身だった。

「そんなことないですよ。
 次郎さんは女性に人気がありますし」

 珠子は本気にせずに笑う。

 色褪せた手紙の表にある今は使われていない切手を見ながら、晃太郎が呟いた。

「明治も遠くなったな……」

「いつかの中山先生と同じことをおっしゃってますわ、晃太郎様」

「お前が言ったんじゃなかったか?」

 大阪の博覧会に向かう列車の中で知り合った中山翁が言っていた。

「私なんかは、立ち並ぶ洋風建築や馬車や列車を見ながら、ついこの間まで江戸だったのになあ、なんて思うんですよ。

 若いお二人にはピンと来ないでしょうが。

 田舎に行くと、まだ、そこここに江戸の面影が残っていて。
 時が戻ったような気分になりますが。

 でもまあ――

 江戸も遠くなりましたよね」
と。

 あのとき、それを聞いた珠子が言ったのだ。
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