「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 晃太郎は身重の珠子を気遣い、手を引いて歩き出した。

 それに目敏(めざと)く気づいた善子がずいぶん前の方から振り返り叫び出す。

「山内っ、私の手を引いてっ」

「無理ですってっ」
と子どもを背負ったり、手を引いたりしている山内が叫び返す。

「なんでよっ。
 その方がこの二人みたいにLOVEな感じがするじゃないっ」

「LOVEか……」
と晃太郎が呟いた。

「俺のLOVEは――

『お前が牛乳を毎朝飲みたいのなら、牛乳をとる。
 なんなら、牧場を買ってもいい。

 珈琲を薬研で砕くのが大変なら、西洋のミルを買ってくる。

 生活が苦しいのなら、店の本、全部買い占めるし。
 もちろん、電話代も俺が払う』」

「店の本を買い占める以外、全部やってくださってますわ」
と珠子は笑う。

「あと――」

「あと?」

「『博覧会に行きたいのなら、連れて行く』」

 博覧会の会場でそう言う晃太郎に珠子は笑った。
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