「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「それにしても、これ、いい器だな。
 洋柄の……

 輸入物か?」

 しげしげと晃太郎は白地に水色のラインや金の柄の入ったカップを見つめる。

「いえ、日本のですよ。
 輸出用のでしょうね。

 底にNIPPONって書いてありますから。

 ……前の家から移るとき、お父様が隠し持ってきてたみたいで」
と珠子がちょっと声をひそめて言うと、

「ここへ来たとき、今までの暮らしとは全然違って、苦労したろう?」

 そう晃太郎が心配そうに言ってくる。

 珠子は古い家屋の中を見回し言った。

「でもまあ、それはそれで面白かったですよ。

 みんな、自分で家のことをするってことに慣れていなかったので。
 なにもかもが新鮮で面白かったです。

 ……まあ、両親はすぐにここからいなくなってしまいましたけど。

 ここはもともと父がよく来ていた古書店で。
 引退される店主から買ったんですが。

 町の雰囲気も好きだったみたいで」

「確かに、いい町だ」
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