忌み子の私に白馬の王子様は現れませんでしたが、代わりに無法者は攫いにきました。
幕間 シチュー ①
ナイゼルの事務仕事の手伝いをした翌日、私は特に何の予定もない休日だった。
中庭に設置されたベンチに座りぼんやりと空を眺めている。ここからは見られないけれどアジトからほど近い場所にある戦闘員の訓練所からは武器の金属音や傭兵の掛け声が遠くから聞こえてきていた。今日は何をしようかな。
「…………」
天気もいいし、散歩にでも出かけようかしら。アジトのある山間は特に危険な動物はいないと聞いている。子供達も日が差している時間帯なら自由に遊び回っていた。私が一人で出かけても特に心配はない。
そう考えてベンチから立ち上がろうとした時、
「姐さん、いいニュースっすよ!」
オオカミ型獣人の元気な声が中庭に響く。オオカミの耳をピクピクさせて、中庭に駆け込んでくる。
いつもヴィシャスと一緒に仕事しているイメージの彼だけど今回は一緒ではなかったらしい。アジトで訓練している姿を最近はよく見ていた。
「どうしたの……ガルフ?」
「アニキたちが任務から帰ってくるんすよ! 今日の夕方にはアジトに到着するって、連絡が入ったっす!」
「……ふぅん」
帰ってくるのは一週間ぶりだ。悪徳商人に嵌められらた亜人を助けに行くと言っていた。彼は頼んでもないのに仕事で遠征に出かける時は私に報告してくるのだ。
「嬉しそうっすね。頬が緩んでます」
「…………」
え、うそ?私って無表情だしそうそう感情も動くタイプじゃないし。手で自分の口の端を触ると口角がわずかに上がっている気がしないでもない。いや気のせいだ。
「へへっ、あっしも姐さんの感情が分かるようになってきやしたよ」
得意げなガルフに水を差しても悪いから黙っておく。
そうか、帰ってくるんだ、ヴィシャスが。
「…………ねえ」
「何すか?」
「ヴィシャスってキノコって好き?」
今日の夕食の食事当番は私だ。食事当番は毎日4人程度が持ち回りで順番に請け負うことになっている。具体的なメニューを決めることは私の担当役割だった。
たまのことだし、仕事から帰ってくるヴィシャスを労ってあげてもいいかもしれない。キノコならこの時期、山に生えていたはず。丁度、散歩に行くつもりだったし、好物ならついでに採ってきてあげようかな。何となくそんな気持ちになっていた。
どうせ出かけるのだ。あくまでついで、ついでだ。特段彼を喜ぶ顔が見たいとかそんなことを考えているわけじゃない。
「キノコっすか?好きなはずっすよ! 肉厚で香りのいいヤツ。山で採れるんすけど、姐さん、行くつもりっすか?一人じゃ危ないっすよ。一緒についていきやしょうか?」
私は首を振る。小さな子供じゃないのだ。そこまで面倒を見てもらわなくても大丈夫。ガルフも今日は休日みたいだし私の用事で時間をとりたくなかった。
「そうっすか。わかりやした。でも、日が暮れる前には帰ってきてくださいね、姐さんはアニキにとってだけじゃなく、あっしらにとっても大事な人っすから」
「大丈夫……すぐに戻るわ」
私は倉庫から木の蔓を編んで作られた手持ちサイズのバスケットと小さなスコップを拝借することにする。そうと決めたら早速準備だ。キッチンに寄って今日はキノコのシチューを作りたいから山に入ると報告。食堂の隅の棚からバスケット、外の物置からスコップを持ち出す。
簡単に準備を済ませるとアジトの裏門から山へ向かう。
中庭に設置されたベンチに座りぼんやりと空を眺めている。ここからは見られないけれどアジトからほど近い場所にある戦闘員の訓練所からは武器の金属音や傭兵の掛け声が遠くから聞こえてきていた。今日は何をしようかな。
「…………」
天気もいいし、散歩にでも出かけようかしら。アジトのある山間は特に危険な動物はいないと聞いている。子供達も日が差している時間帯なら自由に遊び回っていた。私が一人で出かけても特に心配はない。
そう考えてベンチから立ち上がろうとした時、
「姐さん、いいニュースっすよ!」
オオカミ型獣人の元気な声が中庭に響く。オオカミの耳をピクピクさせて、中庭に駆け込んでくる。
いつもヴィシャスと一緒に仕事しているイメージの彼だけど今回は一緒ではなかったらしい。アジトで訓練している姿を最近はよく見ていた。
「どうしたの……ガルフ?」
「アニキたちが任務から帰ってくるんすよ! 今日の夕方にはアジトに到着するって、連絡が入ったっす!」
「……ふぅん」
帰ってくるのは一週間ぶりだ。悪徳商人に嵌められらた亜人を助けに行くと言っていた。彼は頼んでもないのに仕事で遠征に出かける時は私に報告してくるのだ。
「嬉しそうっすね。頬が緩んでます」
「…………」
え、うそ?私って無表情だしそうそう感情も動くタイプじゃないし。手で自分の口の端を触ると口角がわずかに上がっている気がしないでもない。いや気のせいだ。
「へへっ、あっしも姐さんの感情が分かるようになってきやしたよ」
得意げなガルフに水を差しても悪いから黙っておく。
そうか、帰ってくるんだ、ヴィシャスが。
「…………ねえ」
「何すか?」
「ヴィシャスってキノコって好き?」
今日の夕食の食事当番は私だ。食事当番は毎日4人程度が持ち回りで順番に請け負うことになっている。具体的なメニューを決めることは私の担当役割だった。
たまのことだし、仕事から帰ってくるヴィシャスを労ってあげてもいいかもしれない。キノコならこの時期、山に生えていたはず。丁度、散歩に行くつもりだったし、好物ならついでに採ってきてあげようかな。何となくそんな気持ちになっていた。
どうせ出かけるのだ。あくまでついで、ついでだ。特段彼を喜ぶ顔が見たいとかそんなことを考えているわけじゃない。
「キノコっすか?好きなはずっすよ! 肉厚で香りのいいヤツ。山で採れるんすけど、姐さん、行くつもりっすか?一人じゃ危ないっすよ。一緒についていきやしょうか?」
私は首を振る。小さな子供じゃないのだ。そこまで面倒を見てもらわなくても大丈夫。ガルフも今日は休日みたいだし私の用事で時間をとりたくなかった。
「そうっすか。わかりやした。でも、日が暮れる前には帰ってきてくださいね、姐さんはアニキにとってだけじゃなく、あっしらにとっても大事な人っすから」
「大丈夫……すぐに戻るわ」
私は倉庫から木の蔓を編んで作られた手持ちサイズのバスケットと小さなスコップを拝借することにする。そうと決めたら早速準備だ。キッチンに寄って今日はキノコのシチューを作りたいから山に入ると報告。食堂の隅の棚からバスケット、外の物置からスコップを持ち出す。
簡単に準備を済ませるとアジトの裏門から山へ向かう。