囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 コクっと頷くと「良い子だ」そう言って頭を撫でてくれた。

 その時――。

<トントントン>ノックの音が聞こえた。

「入れ」

「失礼いたします」

 部屋へ入ってきたのは、隊服を着た騎士だった。
 あれ、この人。オスカー邸で見たような。

「お楽しみのところ申し訳ございません、隊長。少しご相談したいことがあります」

「その言い方はどういう意味だ?」

「素敵なレディとベッドを共にしていたので。お邪魔して申し訳ございませんが、至急の事案です」

 素敵なレディとベッド……。
 この人の目には、そんな風に写っていたのね。
 カートレット様は、はぁと溜め息をつき
「わかった。アイリス、こいつは副団長のカイル・フォスターだ。俺が居ない時、何か困ったことがあったらこいつに伝えてくれ」
 カイル様を紹介してくれた。

「はじめまして。アイリス様。カイル・フォスターと申します。よろしくお願いいたします」

 ペコっと彼は頭を下げた。

「カイル。アイリスに変なことを吹き込むなよ。もし余計なことをしたら……」

「わかってますよ。隊長を怒らせると俺以外にも巻き込まれる隊員が出るので。肝に銘じておきます」

 カートレット様、怖い人だと思われてるんだろうか。
 こんなに優しい人なのに。

「アイリス。この後のことは、メイド長に頼んでおくから。ゆっくり休みなさい。もし明日体調が良さそうなら、屋敷の案内する」

「はい。ありがとうございます」

 カートレット様と離れることが寂しいと感じてしまった。
 きっと今、私にはこの人しかいないから。母親の側を離れたくない子どものような不安な気持ちになる。

「それと。何かあったらこのブローチに祈ってほしい。俺に繋がるようになっている」

 彼は机の引き出しからブルーのペンダントを出し、私に渡した。

「良いのですか。このような大切なものを私に」

「ああ。キミに持っていてほしい」

 私たちのやり取りを見ていたカイル様が
「隊長。どこか気分でも悪いんですか?いつにもなく優しすぎて怖いです。男性にも女性にも厳しいのが団長なのに……。まさか、アイリス様は団長の……」
 言葉の途中だったが、何かを言いかけたその瞬間、彼の前髪がハラハラと散った。剣の切先がカイル様の目先にあった。

「これ以上余計なことを言うと、お前と言えど……」

 速すぎて見えなかった。
 いつ剣を取り出したんだろう。

「はい。申し訳ございませんでした」

 肩を落としたカイル様とカートレット様は別室へ向かった。

 そして私はメイド長に案内され
「こちらの部屋をお使いください」
 今後一人で使って良い部屋に案内をされた。

 こんなに広いお部屋、良いのかしら。母と住んでいた家より遥かに広い。

「しばらくは静養を。何かありましたら、ベルでメイドを呼んでください」
 
 それだけ伝えると、彼女は部屋から去っていった。
 静養か。
 私にできることってなんだろう。
 やっぱりこの力を使って王都へ仕えることなのかな。
 ポスっとベッドへ倒れ込み、目を閉じる。
 考える間もなく、眠りに入ってしまった。
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