囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 彼女の姿を見て
「一体どういうことだ。エリスが人を殺そうとするわけがない」
「どちらが正しいんだ」
「エリスはずっとご主人様を慕ってきたわ。この子がそんなことをするわけがない」
 口々にエリスを擁護する声が聞こえてきた。

 やっぱり、まだ来て間もない私が信じてもらえるはずはないわよね。
 泣き叫ぶエリスに驚嘆を隠せない人々、雑音がその場を占めた時――。

「黙れ。これが真実だ」

 あれ、カートレット様にもらった私のブローチが熱いような――。
 すると、ブローチから光が溢れ、映像が映された。
 これはさっきの私たちだ。

<貴方なんて居なくていいのよ。邪魔者。バカな女>

 エリスが言葉を発した次の瞬間、私は彼女によって突き飛ばされている。

「なっ!これは!?」

「エリスが殺そうとしたのか?」

 騙すことのできない証拠を突き付けられ、彼女は絶句している。

「エリス。今すぐここから出て行け」

 彼が冷たく言い放った。

「そんな!カートレット様!待ってください!私は、あなたのことを一番に慕っていて!それをこの女がっ!」

 すがりつく彼女に
「罪のない人を平気で殺そうとした奴は、俺の従者には要らない。出ていけ。これ以上騒ぐと裁判にかけるぞ」
 容赦ない彼の言葉が待っていた。

 出て行けって、彼女は家族から見放されたって言っていたし、行くところもないんじゃ。

「カートレット様。彼女に猶予を与えてあげてください」

 私は運よく生きている、反省しているのなら許してあげてほしい。

「ダメだ。カイル、こいつを連れて行け」

 駆け付けていた副団長のカイル様に命じ
「アイリス。悪かった。本当はこのブローチから事実を見ることができたんだ。キミの口から正直に話してほしくて、先ほどは黙っていた」
 私にそう伝えてくれた。

 カイル様と数人の騎士がエリスを連れて行こうとすると
「あんたなんか来なければこんなことにはならなかったのに!この魔女め!!」
 私に向かってエリスが叫んだ。

 私なんていなければ……。
 たしかに私が現れなければ、彼女は今まで通りここに勤めて、普通の生活を送っていただろう。
 心が乱れることもなかったかもしれないのに。
 彼女の気持ちを考えるとチクッと心が痛んだ。

 なんて言葉をかけて良いのか悩んでいた次の瞬間、青い光が彼女の耳元をかすめた。
 青い閃光は壁を突き抜け、チリチリと周辺を焦がしている。
 光が当たったであろう彼女の髪の毛は焼かれ、耳からはポタポタと床に血が流れるほど出血している。

「カートレット……様?」

「これ以上口を開くとさらに酷いことになる。去れ」

 これが冷酷非道と言われている理由だろうか。

 静まり返る現場。皆、彼の思わぬ行動に息を飲んでいる。
 その後、魂が抜かれたようにエリスの顔からは表情がなくなり、無言でどこかに連れて行かれた。

「カートレット様!酷いです!あそこまでやる必要があるのですか!?」

 女性の髪の毛は大切だ。傷によっては、耳を出して装飾品を着けることもできなくなるかもしれない。

「お前も俺から離れて行くのか?」

「えっ?」

 どういう意味だろう。
 返事ができずにいると
「今日はもう休め」
 彼は一瞬哀らしい表情をし、歩いて行ってしまった。

 それから私は自室へ戻り、動くことができず、ベッドへと横たわった。
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