囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 そして私は母を殺した貴族、クラントン家に連れて行かれた。
 連れてこられた後も私が一向に治癒力を見せようとしないため、拷問を受けることもあった。

「自分の傷は自分で癒せるだろう?」そんな風に言われて。

 私は自分のために治癒力を使わなかった。
 だから傷が増えていく毎日だった。
 拷問は死なない程度で、頬を叩かれたり、お腹を蹴られたり、手を踏まれたり。
 それを楽しんでいたのが母を殺した男、オスカー・クライトンの妻、マーガレットだった。

「本当にバカみたいな子。早く力を使えばいいものを。強情なところはあなたの母にそっくりね?」
 
 母という言葉に私の肩がピクッと反応をしてしまった。

「あら?知らないのかしら。あなたのお母様はオスカー様の弟と駆け落ちしたのよ。ただの貧民を愛してしまったオスカー様の弟もバカな男だわ。家紋を捨ててまで、あの女と一緒にいることを決めたんだから。ま、その後すぐに《《事故死》》したって聞いたけれど」

 そんな過去があったの。
 お母様はなぜ私に教えてくれなかったのだろう。
 私のお父様は《《病死》》だと聞かれている。

「あなたの顔を見る前に事故死したらしいわね。不運よね。本当に。まぁ、家紋を捨てた恥かしい人間なんて《《この世にいない方が良い》》のだけれど」
 
 ハハっとマーガレットは甲高く笑った。
 その声で気づいた。父は病死なんかではない。
 きっとこの人たちに殺されたんだ。お母様みたいに。

「何その目。気に入らないわ。もっと痛い目に遭いたいの?」

「やめておきなさい。マーガレット。皇帝に見せる時に傷ものでは疑われるだろう?この力があれば、うちの家紋は安泰だ」

 横からオスカーが現れ、マーガレットの肩を抱いた。

「いいか。囚われの聖女よ。早く力を見せろ。まずはお前の自分自身の傷を癒すところを見せろ。本当はできるんだろう?」

 返事なんてするわけがない。

「ふん。時間はいくらでもある。洗脳から始めるんだ」
 
 不敵な笑みを浮かべ、彼らは去っていった。
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