囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 私は暗闇の中でずっと一人で過ごす、そんな日々が続いていた。
 残っているのは、母との楽しい思い出だけ。
 涙も出なくなった。
 食事も摂らず、ただその日を生きていた。

「洗脳」と呼ばれるものは私には効かないらしい。
 魔導師が来て、何か呪文を唱えたけれど、私は影響は受けなかった。
 これも聖女の力が関係しているのだろうか。

 オスカーが焦り始め
「いい加減、諦めたらどうだ」
 そう告げてきた時だった。

「大変です!オスカー様。今、王都の騎士団が来ています。調査が入るそうです。他国への情報漏洩や密輸、領土での平民殺し等が疑われています。すぐに応接室へ来てください」

 執事長らしき人物が現れ、オスカーとともに消えた。
 
 この家紋は本当に最悪ね。早く消えてしまえばいいのに。
 
 きっと悪事を働いていることは確かだろう。
 私もこの力を彼らのために使うつもりはない。
 一層のこと、私も死んでしまえばいいのよ。
 死を覚悟していた時だった。

 その時、地上から物凄い鈍い音が聞こえた。
 雷鳴のような、ドーンとした地響きも聞こえ、振動も感じる。

 一階()で何が起こっているの。
 建物が揺れる感覚を覚える。
 耳を済ますと悲鳴のような声も聞こえる。

 しばらくすると数名の足音が慌ただしく聞こえてきた。

「早く逃げるんだ。このままだと私たちは処刑されるぞ。アイリス(こいつ)の力さえあれば、何とかなる!この家も燃やしてしまえば証拠が残らない」

 私の前に現れたのはオスカーと数人の執事だった。
 監獄のカギを開け、私を強引に立たせ、どこかに連れて行こうとする。

「早く歩け!見つかるぞ!」

 彼らの慌てようは尋常ではない。
 引きずられるように一階へ誘導された。
 
 焦げ臭さとともに、屋敷内は煙が充満してきている。
 
 燃えているの?

 理解ができずに彼らに引きずられるまま、大廊下に差し掛かった時だった。
 
 目の前に男性が見えた。
 服装からして騎士?しかも上級の。オスカー(この人たち)の仲間?

「逃げるな。今ここで殺すぞ。オスカー・クライトン」

 低い声音。怖い。
 この人たちの仲間ではないの?

「お待ちください。《《カートレット》》騎士団長様。決して逃げようなどとは……」

 息を切らしながらオスカーが答えた。

「では、ここで何をしている。私は応接間でずっと待っていたのだが。家の一室から炎が上がったのは知っている。今更何を隠そうする?王都に逆らった証拠はすでに揃えているんだ。皇帝の処罰を受けろ」

 カートレット騎士団長?
 王都を中心に守っている皇帝陛下直属の騎士団の名前が確か……。
 街で聞いたことがあった。
 皇帝のためなら何でもする、冷酷非道な騎士団長だって。
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