囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
 私が彼を見つめていると目が合った。

「その女性は誰だ?ここの人間ではないな。報告書の中にはいなかった」

 彼は段々と距離を詰めて来ている。

「ひっ……」

 その圧力からか、悲鳴を上げ、私を支えていた執事たちは逃げ出した。

「おいっ!お前ら」

 オスカーも「チッ」と舌打ちをしながら私を置いて逃げようとした。
 が、その瞬間、ドーンという雷鳴が聞こえ、一瞬、青い光のようなものがオスカーに刺さったかのように見えた。
 彼はその音と共に倒れ、次第に床に血だまりができ、彼が一瞬のうちに絶命したことを理解した。

 これはなに?どうなっているの?この人の力?

 私はストンとその場に座り込んでしまった。
 腰が抜けてしまったというか、単純に何も食べていなかったためか、力が入らない。

「監獄にでも幽閉されていたのか?何をした?」

 私の破れたドレスからは素足が見え、足枷のあとが見える。

「何もしていないわ」

 この人に嘘は通用しない。この人の目を見た瞬間、そう感じた。

「話はあとから聞こう。ここはすでに危ない。魔導師が暴れているらしい。屋敷から出るぞ」

 手を差し出されたが、この手を取って良いのだろうか。
 
 躊躇っていると
「カートレット様!魔導師が魔法陣を解きました。ここは危ないです。俺たちも退避します」
 部下らしき人がこちらに向かって叫んだのが聞こえた。

「わかった」

 落ち着いて彼は返事をした。

 この屋敷は崩れるんだ。だったら私もここで死んだ方が楽よね。
 これ以上生きていても私には何も残っていない。大切な人も。守りたい人も。死ぬのを覚悟していたところだったじゃない。

「私はここに残り、死にます」

 私の発した言葉に驚いたのか、彼が一瞬目を見開いた。

「なぜ死のうとする?何か罪を犯したのか?」

 彼の言葉の後ろで、ガタガタと建物が崩れる音が聞こえる。
 ああ、本当に終わるのね。

「罪は犯していません。あなたは早く逃げてください。危ないです」

 そういえば、煙の色も濃くなっている。
 なんだか苦しくなってきた。コホコホと咳も出る。

「お前を残して逃げはしない」

 彼の言葉に返答のしようがなかった。
 
 どうして。ほっといてよ。
 生きていたら私がここに幽閉されていた理由をきっと調べられるし、もしも聖女の力があるとわかったら国に利用されるだけ。
 私は私で居られなくなる。国の犬として使わることは間違いないだろう。

「私はもう生きたくありません。どうか見逃してください」

 私は座り込んだまま、頭を下げた。

 彼は何も言わなかった。
 
 その時――。
 さらに大きな揺れが襲い、近くの壁が崩れた。
 その瞬間、天井がパラパラと崩れ始め――。

「危ない!」

 真上の天井が崩れ落ちてきた。

 目をつむったが――。
 あれ、何も感じない。
 
 目を開けると彼に抱えられ、建物の外に立っていた。
 どうして?
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