囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される
「転送魔法を使った」

 魔法を使った?騎士様が?
 転送魔法ってかなりの上級魔法じゃ。
 この国では限られた魔法使いでないと使えないって聞いたけれど。

「どうして私を助けたのですか?」

 一層のこと、死なせてほしかった。

「お前が助けを求めている顔をしていた」

「えっ?」

 抱えられたまま、彼の顔を見る。
 この人、とても綺麗な顔立ちをしているんだ。
 髪の毛はサラサラでシルバーの長髪。切れ長の目。

「狙われているな」

「えっ?」

 彼がそう呟いた瞬間、ドーンと近くを竜巻のようなものが通った。
 ぶつかった木々は折れている。

「お前か。オスカー・クライトンが雇った魔導師は」

 黒服に身を包んだ男がこちらを見ていた。

「オスカーはもう関係ない。自分の力を試したくなった。最強と言われている王都の騎士団長であるお前は、私に勝てるのか。騎士は魔法使いよりも下であることを証明してやる」

 はぁと溜め息をついたカートレット()
「お前は俺には勝てない。死にたくなければ失せろ。まぁ、オスカーに手をかしていたことがわかれば、あとから探し出し、極刑だけどな」

 私がいるから邪魔なんだ。この人は私を抱えたままだと自由に動けない。

「おろしてください。私があなたの邪魔をしています」

「言うことを聞いたら、お前も俺の願いを一つ聞いてくれるのか?」

 俺の願いって?
 こんな状況で何を言っているの。

「騎士の分際で、俺のことを無視するな!」

 魔導師は何かを唱え、赤い炎の塊を飛ばしてきた。
 
 熱い。
 彼は私を抱えたまま、その炎を避けている。

「逃げてばかりじゃ勝てないぞ」

 ハハハっと自分が優勢であるかのように魔導師は笑っていた。
 このままだと私のせいでこの人が死んでしまう。
 炎が彼の腕を掠め、隊服が焼けた。
 きっと火傷している。私を庇ったせいだ。

「わかりました。おろしてくれたらあなたの願いを一つ何でも聞きます。だから私を……」

「約束したぞ」

 彼はフッと笑うと、攻撃を避けながらスッと優しく地面に私をおろしてくれた。そして私の前に立ち、剣を抜いた。

「死ね!」

 魔導師が叫び、先ほどよりも大きい火の玉を放った。

「お前がな」

 彼は剣で炎の玉を切ると、一気に魔導師まで走り寄り、その体を真っ二つに切った。

「バカな……」

 その言葉一つ残し、魔導師は一瞬にして絶命した。

 これが王都で一番強い騎士団長の力なの?
 私がいたから足手まといだったけれど、一人だったらもっと余裕で勝てたはず。

「大丈夫か」

 剣を鞘にスッと戻し、彼は私の元へ帰ってきた。

「はい」

「良かった」

 彼が少しだけフッと微笑みかけてくれた。
 こんな優しい顔ができる人なんだ。

「あの、私のせいで腕に傷を……」

 隊服が焼け、肌が見えた。

「このくらい大丈夫だ」

 治癒力(私の力)を使えばすぐに治せる。
 けれど、この人に力のことを話していいの?
 この人も私のことを利用しようとするのかしら。
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