クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「今いく」

 私は慌てて立ち上がった。今夜の売場改変にばかり気を取られて、今日の店舗運営に支障を来してはいけない。

 だが釣り銭を持って売場に出た時、私はやっと自分のミスに気づいた。
 あっちもこっちも、ぱっと見で分かるほど店頭在庫が不足していたのだ。特に、お店の顔である店頭の在庫がかなり過少している。

 レジを起動しながら、私は売場に向かって声をあげた。

「真霜さん! 店頭の補充は誰に振ったの?」

 すると、ばたばたと売場を走る音が聞こえた。真霜の姿が店頭に見えたが、その顔は青ざめている。
 そのままフリーズしてしまった彼女に申し訳ないと思いつつ、私はレジの中から大声を出した。

青山(あおやま)さん、今の補充の手を止めて店頭ひな壇のレディース在庫補充お願い! 片付けはやらなくていい、在庫は倉庫入ってすぐ右の壁沿いにあるから」

 青山さんは品出しの早い年配のベテランスタッフだ。彼女なら、十五分もあれば店頭在庫を出し切ってくれるだろう。

「了解しました!」

 快活な青山さんの声が聞こえ、ひとまず胸を撫で下ろす。だが、売場がスカスカなのは店頭だけじゃない。しかも、オープンまであと四十分弱しかない。それなのに、私はレジ開設で手を離せない。
 真霜は売場をばたばたと走り回っているようだ。だが、彼女の声は聞こえない。きっと自分のミスに気づいて、パニックになっているのだろう。

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