クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
 互いに荷物を取り出し、帰路に着く。従業員出入口へ続く長廊下を歩いていると、真霜が呟いた。

「そうだ、廉士くんにお礼しないと」
「彼が売場に来てたの、知ってたの?」

 すると、彼女はこくりと頷く。

「あれだけ大きな声で名前呼ばれたら、嫌でも気づきますって」

 だったら悪いことをしたなと思ったが、彼女はくすりと笑って続けた。

「でも私も手が離せなかったですし、店頭は店長がいるから荷受けもばっちりしてくれるだろうと思って、彼の方には行きませんでした。廉士くんが手伝ってくれたのって、私が落ち込んでたからですよね。だから、忘れないうちにお礼のメールをしておきます」

 はにかみながらそう言う真霜は、やっぱりかわいい。このカップルは、どれだけ互いのことを思い合っているのだろう。

(互いを思いやれるカップルって、やっぱり素敵だな)

 ほっこりしながら歩いていると、鞄を探っていた彼女の足がふと止まる。それからパンツのポケットに触れた彼女は、急におどおどし始めた。

「店長、スマホ忘れてきたみたいです」

 真霜はそう言うと、焦りの表情を浮かべた。
 私はちらりと腕時計を見た。申請していた残業終了時間まで、あとわずかしかない。

「分かった、取っておいで。真霜は明日休みだし、ないと困るでしょう? 守衛さんには、先に行って事情を話しておくから」
「店長、ありがとうございます」

 彼女はそう言うか早いが、踵を返し店舗へと走って戻ってゆく。

「転ばないようにね!」

 そう声をかけ、私はひとりで従業員出入口へと向かった。

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