クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない
「智田SV、待ってください」

 私は慌てて智田SVを呼び止めた。急いでスタッフルームの傘立てからビニール傘を手に取り、駆け足で戻る。
 彼はその場に無表情のまま立っていたが、戻ってきた私の手元を見て、私がなにをしようとしているのかを察したらしい。

「返さなくていい。この店舗の、急な雨の時の貸出用にでもしてくれ」

 彼はそう言うと、私にくるりと背を向ける。

「でも――」

 言いかけ、追いかけようとしてやめた。

(これはきっと、〝返されても困る〟っていう意味だよね。私が『かわいい』なんて言ったこと、きっと思い出したくないんだろうな)

 そう思いながらも、ここで口を噤んでは失礼だとも思う。

「ありがとうございました。おかげで、濡れずに済みました」

 慌ててそう紡ぐと、彼はこちらを振り向かずに軽く手を上げ、そのまま行ってしまった。

 そんな彼の態度に気持ちが落ち込んでしまう。ため息がこぼれそうになり、はっと顔を上げた。

(仕事だけって、決めたじゃない)

 智田SVの行動に一喜一憂してしまう。仕事なら冷静でいられたのに、そこから少しでもはみ出るととたんに気持ちが乱高下してしまう。

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