滾る恋情の檻
ある日。
リビングでスマホをいじっている兄の隣に座り、私は少し勇気を出して尋ねた。
「……ねぇ、お兄ちゃん。」
「何だよ?」
「あの人……結城先輩………また家来る?」
「……明日来る約束してるけど」
その言葉に、胸が高鳴り、思わず口元が綻んだ。
けれど、そんな私に気づいた兄が、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「なに、あいつに惚れた?」
「えっ……違うし……!」
思わず反射的に言い返す。けれど、次に続いた兄の言葉に、心臓が抉られるような感覚を覚えた。
「あーあ。残念でした〜。アイツ彼女いるから。諦めろ」
「え……」
頭の片隅では、当然だとわかっていた事実。
でも、いざ、言葉にされて突きつけられると、どうしても切なさが広がっていく。
(そっか……やっぱり、あんなに優しくてかっこいい人だから、彼女がいてもおかしくないよね……)
(それに、私みたいな年下……きっと恋愛対象外……)
頭では分かっている。
結城先輩は手の届かない存在。
けれど、それを考えるだけで、胸がぎゅっと締めつけられた。
――先輩はその後、家にちょくちょく顔を出すようになった。
リビングで挨拶を交わしたり、兄の命令でお菓子を持って行った時に言葉を交わす。
それだけ。
けれど、
「ありがとう、美子ちゃん」
先輩のその微笑みと、柔らかい声を聞けるだけで、胸が高鳴る。
目が合うだけで、心が鷲掴みにされたようにきゅっとなる。
それだけのことなのに、先輩への気持ちは日に日に膨らんでいく。
何でもない日常の一瞬一瞬が、私にとっては特別で、幸せで、切ない。
(あぁ……どうしよう。会うたびに、好きになっちゃう……)
でも、やっぱり、届かない想い。
手の届かない先輩に、私はただ胸を高鳴らせることしかできないのだった。