滾る恋情の檻
執情ー遥sideー
ある日の放課後。
友人の拓也の家に行くことになった。
拓也は、声も態度も荒っぽくて、けれど妙に憎めない奴。
拓也には妹がいるらしい。
確か、高校に入ったばかりだと言っていたか。
拓也の性格を考えると、妹もきっと勝気で、男勝りなタイプなのかもしれない。
(……まぁ、どんな子かくらいは気になるな)
それくらいの軽い気持ちで、玄関のドアをくぐった。
「ただいまー……っと。おい、美子、いるかー?」
拓也の声がリビングに飛んでいく。
その時だった。
ぱたり、と教科書なのか、何かが閉じる音がして、足音が近づく。
姿を現したのは、同じ高校の制服姿の女の子――拓也の妹。
「いるけど」
そう返ってきた声は、意外なほど柔らかくて、女の子らしかった。
目に映った瞬間、思考が止まった。
艶のある黒髪を耳のあたりで切り揃えた、ショートボブ。
化粧っ気なんてないのに、透き通るような肌と、伏せ気味の大きな瞳が印象的で。
まだあどけなさの残る顔なのに、目の奥にかすかな影を宿していて――そのアンバランスさに目を離せなくなった。
拓也の妹、と聞いたときに想像していた勝気で豪快なタイプとは、まるで正反対。
そこに立っていたのは、控えめで、どこか恥ずかしげにこちらを見上げる、大人しそうな女の子だった。