滾る恋情の檻

 美子と初めて会ったあの日から。

 俺は、拓也の家に、何かと理由をつけて入り浸るようになった。


「親友だから」っていうのは、建前。


本当の目的は、リビングにいる美子に会うため。


拓也へは、宿題を一緒にやるだの、ゲームをするだの、受験勉強の息抜きだの――理由なんていくらでも捏造できた。


拓也はシスコンだから。俺が妹目当てで家に来てるなんて知られたら、もう呼んでくれない可能性があった。


だが、一ミリも疑ってる様子はなかった。


"彼女"がいたからこそ、バレにくかった。


……わざと別れず付き合い続けたのも、それが大きい。最低だと思う。だけど俺にとっては保険だった。



 家にお邪魔すると、美子は、いつも小さな背中を丸めて課題をしていて、俺が顔を出すと、ぱっと視線を上げる。


そのたびに頬を赤くして、はにかみながら「こ、こんにちは」なんて小さな声で挨拶する。


その瞬間――確信する。


熱を帯びた目。隠しきれない"好意"。


それに気づくたび、胸の奥でぞくりとした高揚が走る。


彼女持ちのまま、拓也の妹に欲情してる――そんな異常な自分がいることも、十分理解していた。


でも止まらなかった。


むしろ、隠された執着心はじわじわと、俺の中で燃え広がっていった。


彼女の笑顔一つ、頬を染める仕草一つ、俺を名前で呼んでくれるその声ひとつ。


どれも俺の理性をじわじわ削っていった。
目が合うだけで、もう充分だったはずなのに。

会えば会うほど欲しくなっていく。


その目に、自分以外の男が映る未来を想像するだけで――胃の奥が焼けるように痛くなる。


(……いずれ、絶対、俺のものにしたい……)


そんな欲望を抱えたまま、俺は今日もまた理由をでっち上げて玄関をくぐる。


拓也の部屋に向かいながら、視界の端で黙々とノートにペンを走らせる美子の姿を、ただひたすら目で追い続けていた。

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