滾る恋情の檻
拓也の家に上がると、リビングのテーブルの前に美子が座っていた。
ペンを握りしめ、ノートに向かっている。
「お邪魔します」
そう声をかけると、ぱっと顔を上げた美子は、恥ずかしそうに頬を染め、視線を逸らした。
いつものことだ。
それなのに――毎回、胸の奥が小さく高鳴る。
すると、突然、拓也がスマホを見て「やべっ」と声を上げた。
慌てて荷物を持ち出していく。
(……ラッキーだな)
残されたのは、美子と俺、ふたりだけ。
普段なら拓也の目があるから、ほとんど会話すらできない。
だが今日は違う。誰にも邪魔されない。
美子に、俺という存在を刻み込む絶好の機会――。
「麦茶でいいですか?」
おずおずと差し出す声。
「うん、ありがとう、美子ちゃん」
名前を呼ぶだけで、肩を震わせる。
本当に、わかりやすい。
拓也の部屋には行かず、隣に腰を下ろすと、美子は驚いたように固まった。
(可愛い)
緊張してノートに目を落とすその仕草も、たまらない。
「ここ、答え違うかも」
そう言って指先でノートをつつくと、美子は一瞬息を呑んで俺の手を見つめる。
その熱を帯びた目に、胸がざわついた。
やがて、美子が勇気を振り絞るように尋ねる。
「結城先輩って…大学、どこ受けるんですか?」
「S大だよ」
答えた瞬間、美子の表情が曇った。
わかりやすいほど落ち込んで、唇をかすかに噛んでいる。
(あぁ……可愛い。かわいい。ほんとにかわいい)
その感情だけが、頭の中を埋め尽くしていく。