滾る恋情の檻
気づけば、身体が勝手に動いていた。


目の前に影を落とし、そのまま唇を塞ぐ。


「……っ」


硬直する美子の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間、頬が一気に赤く染まった。


その顔を見て――悟った。


(初めてのキスか)


胸の奥から、じわじわと優越感が湧き上がる。


(俺が奪ったんだ。誰より先に)


強烈な独占欲が、全身を貫いた。


けれどそれを悟らせるつもりはなかった。


唇を離すと、困惑する彼女に対して平然を装い、笑みを浮かべ、


「美子ちゃんが可愛かったから」


と答えた。



――本当は、今すぐ押し倒して、この子の全部を俺のものにしたい。


ノートに視線を落としながらも、その思考は頭の中を埋め尽くす。


ぐちゃぐちゃにして泣かせたい。俺以外の男なんて見られなくしたい。


その時、玄関のドアが開く音がした。


「ただいまー!」


拓也が戻ってきた。


俺はすぐに頭に浮かんだ思考を消し去り、笑顔を作り直す。


「美子ちゃんの宿題、勝手に見てた」


平然と答え、いつも通りの俺を演じる。


けれど振り返りざま、美子とだけ視線を交わし、人差し指を唇に添えた。


「――秘密だよ」


誰にも知られない、この甘い背徳。
心の奥底で、熱く狂おしい執着が静かに膨れ上がっていった。
< 32 / 42 >

この作品をシェア

pagetop