滾る恋情の檻
その時、
「ただいまー!」
兄が帰ってきた。
「あれ?何、遥、ここにいたの?」
「うん。美子ちゃんの宿題、勝手に見てた」
ヘラリと笑う先輩に対して、私は無言だった。
「ふーん…」
拓也は気にする様子もなく、「早く部屋行こーぜ」と遥を連れていく。
私は二人の後ろ姿を、どこか遠くから見ているような心地で眺めた。
――けれど振り返った先輩が、
人差し指を唇の前に持ってきて微笑む。
"秘密だよ"
言葉にせずとも、その意味が私にだけ伝わった。胸の奥がゾワリと震えた。