第三作★血文字の輪廻★
 ④ 第三部 ― 記者の遺言

 黒田は相沢のアパートを再度訪れた。
 押収済みの手帳以外に、まだ何か残されている気がしたのだ。

 埃をかぶった本棚の裏側、緩んだ板を外すと、小さなカセットテープが数本出てきた。
 ラベルには震える字でこう記されている。

 「インタビュー記録」
 「最終取材」
 「……遺言」

 黒田はためらいながら再生ボタンを押した。

 ――ザザッ……ザザッ……

 雑音ののち、相沢の声が流れ出した。
 疲れ切った低い声。

 《……もし、これを聞いている人がいるなら、忠告する。血文字はただの証拠でも、怪異でもない。》
 《あれは……残響であり、囁きであり、輪廻だ。》

 相沢は言葉を切りながら、まるで誰かに脅かされているように録音を続けていた。

 《俺はもう、逃げられない。記事を書いた瞬間から……声が俺の中で生きている。》
 《夜中に囁かれる。“おまえが書け”“おまえが残せ”って……》

 テープの奥で、別の音が混じった。
 少女のような声が、かすかに重なる。

 「ほんとうのはんにんは」

 黒田は息を呑み、再生を止めた。
 だがテープの回転は勝手に止まらず、続きが流れ出した。

 《……俺はもう書いた。手帳に……血で……》
 《もし誰かがこれを聞いているなら、答えを――》

 音が歪み、雑音に飲まれる。
 そして最後に、相沢の声が低く、はっきりと囁いた。

 「つぎは きみだ」

 黒田は慌ててテープを取り出し、床に落とした。
 だが、部屋の四方から声が響いている。
 再生機は止まっているのに、相沢の囁きが壁や床に反響していた。

 そのとき、黒田の目に入った。
 埃にまみれた床板に、赤黒い染みがにじみ、ゆっくりと形を取っていく。

 「黒田」

 自分の名が、血文字で浮かび上がっていた。
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