初恋相手に再会したら、恋の続きになりまして
田中がニヤリと笑いながら近づいてきた。

「……オーナー、いま何考えてたんです?」

「は? 何も考えてない」
滉星は視線を逸らす。

「いやいや、嘘っすよ。顔に出てましたもん。完全に“初恋再燃モード”でしたよね」

「お前な……勝手なこと言うな」
言葉では否定しながらも、図星を突かれたように耳の奥が熱くなるのを滉星は感じた。

田中はさらに身を乗り出し、声をひそめて茶々を入れる。
「わかりやすいなぁ、オーナー。あの人と話してるときの顔、めちゃくちゃ柔らかかったですよ? 普段、あんな顔したことありました?」

「……仕事だったんだよ、今日は」

「はいはい、“取材対応”ってやつですね。でも、あれはもう完全にプライベートの空気でしたけど?」
田中はわざとらしく肩をすくめ、ニヤついたままグラスを並べる。

滉星は溜め息をついた。
「お前な、そんなに俺をからかって楽しいか?」

「楽しいっすよ。だって、滅多に見られないじゃないですか、オーナーの“動揺してる顔”。」

からかわれながらも、滉星の胸の奥には否定しきれない思いが渦巻いていた。

「オーナー、正直に言っていいっすか?」

「なんだよ」
滉星は不機嫌そうに眉を寄せる。

「もう一回、会いに行ったほうがいいっすよ。いや、絶対行くべきです」

「……簡単に言うな」

「簡単じゃないっすか。だって、あの人もオーナー見て、すごく嬉しそうでしたよ」
田中は拭いていた布を放り投げ、にやりと笑う。
「俺、女の人の目線には敏感なんで」

滉星は黙り込む。グラスの水面に目を落としながら、心臓が妙に騒がしいのを感じていた。

「……お前、ほんと余計なこと言うな」

「余計なことでもいいじゃないですか。オーナーが幸せになるなら」
田中はいたずらっぽく笑い、片目をつむってみせた。

滉星は再び視線を落とし、グラスの縁を指でなぞった。




理世の笑顔が、どうしても頭から離れない。
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