桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そしてまた、廊下で安妃の姿を見かけてしまった。

「どういうこと⁉」

鋭い声が響く。

「皇后様がいれば、後宮の秩序は守られるはずじゃなかったの⁉」

安妃は怒りに顔を紅潮させ、侍女を相手に吐き捨てていた。

「それなのに……また柳妃ばかり夜伽の番だなんて! これじゃ以前と何も変わらないじゃない!」

憤りに震える声を背に、私はそっとその場を離れた。

足取りは自然と早くなる。

(……やっぱり。煌が私を選べば選ぶほど、周囲の妃たちの妬みは強くなる。)

寵愛が一人に偏れば、他の妃の心は荒れ、後宮全体がざわめく。

それがどれほど危ういことか、私は身をもって感じていた。

煌と過ごす甘い時間は確かに幸せ。

けれどその幸せの影には、燃え盛る嫉妬と私怨が渦巻いている――。

(後宮とは、愛ではなく憎しみを育てる場所なのかもしれない……)

重く冷たい思いが、胸に広がっていった。
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