桃果の契り　才人妃は皇太子に溺愛されて
その時だった。

「静かになさい。」

凛とした声が廊下に響き、妃たちは一斉にひれ伏した。

そこに立っていたのは、皇后様――紅蓮だった。

「皆の気持ちは分かります。しかし、今は耐えるのです。」

落ち着いた声音に、妃たちは息を呑み、うなずいた。

私は柱の陰に身を潜め、耳を澄ます。

「寵愛が続けば、いずれ子を成すでしょう。」

紅蓮様の声は冷ややかだった。

「そうなれば、殿下は他の妃を召さざるを得なくなるはず。その時まで、焦らず待つのです。」

「さすがは皇后様……」

安妃が感嘆の声を漏らし、他の妃たちも同意の言葉を重ねる。

その場の空気が落ち着きを取り戻していくのを感じながら、私は胸を押さえた。

（……子を成す。その時まで耐えろ……）

紅蓮様の言葉が耳に焼き付く。

それはまるで、私の存在が後宮全体の憎しみの矛先になっていると告げられたようで、足が震えた。
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