桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
それは数日続いた。

夜になると、寝所にあの甘ったるい香りが漂い、私は深い眠りに落ちてしまうのだ。

「んん……」

その夜、ふと目を覚ました瞬間、胸が締めつけられるように苦しくなった。

「はぁ……はぁ……」

息が吸えない。喉が焼けつくようだ。

「だ……れか……」

体を起こそうとしても、力が入らない。

周囲を見回したが、あの新しい侍女の姿はどこにもなかった。

(これは……眠りをよくする香りなんかじゃない……!)

枕もとに置かれていた小瓶を必死に掴むと、震える手で戸口へと投げつけた。

ガシャン、と鋭い音を立てて瓶が砕け散り、強烈な香気が辺りに広がる。

「どうなさいました!」

慌てて駆け込んできた宦官たちの先頭に、司馬陽の姿があった。

「柳妃⁉」

戸口に散らばった破片と、床に倒れ込む私の姿を見て、彼の顔色が蒼白に変わった。
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