桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて

第2章 君に会うため

翌日。窓辺から庭をのぞいた私は、思わず息を呑んだ。

――いる。昨日と同じ桃の木の下に、堂々と立つ影。

「……本当に来たの?」

声に出た途端、自分の胸がどくりと跳ねた。

驚きと、ほんの少しの期待が混じっているのに気づく。

煌は片手で枝をしならせ、熟れた実をもぎ取ると、こちらに振り返った。

「疑り深いな。約束したろ。桃の味は、一人で食べるより二人で分けたほうが美味しいんだ。」

果汁を滴らせながら笑うその姿は、武人らしい豪胆さと子供のような無邪気さを併せ持っていた。

「ここは……本当は男が入っていい場所じゃないのに。」

小声で抗議すると、煌は肩をすくめる。

「なら、誰にも見つからないようにすればいい。」

あまりに当然のように言うので、叱る言葉が喉で止まった。

差し出された桃を受け取ると、昨日より甘く感じる。

(危ない。これは後宮で一番してはいけないことなのに――どうして心が踊っているの?)
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