桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……あまり、ここには来ない方がいいわよ。」

桃を手にしたまま、私は思わずそう言っていた。

「どうして?」

煌が首を傾げる。

「ここは皇太子様の妃の庭よ。武人が来ていいはずがないわ。」

声を潜めて告げると、彼はほんの少し目を細め、素っ気ない顔をした。

「だって、小桃は皇太子に会えないんでしょ?」

「そ、それは……そうだけど……」

図星を突かれ、言葉に詰まる。

才人の身分では呼ばれることすらなく、ただ待つばかり。

会えない事実を、彼は見透かしている。

煌は桃をひと口かじり、何気ない調子で口を開いた。

「なら、俺が会えるようにしてやろうか。」

「……はあ?」

思わず素っ頓狂な声が出る。

彼は肩をすくめ、唇の端を上げて笑った。

「冗談だよ。嘘、嘘。」

軽い言葉なのに、不思議と胸の奥がざわめいた。

彼なら本当にそんなこともできてしまうのでは。

――そんな思いが頭をかすめて、私は慌てて打ち消した。
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