桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
(もう、会ってはいけない。)

そう心に言い聞かせ、私は庭に出るのをやめた。

もし誰かに見られたら――後宮に男を引き入れたと知れたら、どんな罰が下るか分からない。

胸の奥に危険の影が忍び寄っていた。

けれど、その決意はあっさりと破られる。

「小桃。」

聞き慣れた声が、戸の外から響いた。

思わず息を呑む。どうして、ここに――。

戸が静かに開き、煌が顔をのぞかせた。

「今日は庭に来ないの?」

「こ、煌! ちょっと……ここは妃の部屋よ!」

慌てて声を潜める私をよそに、彼はずかずかと入ってきて、持ってきた桃を差し出す。

「また一緒に食べようよ。ほら。」

机の上に腰を下ろし、まるでそこが自分の部屋であるかのように居座る。

一介の武人が、皇太子の妃の部屋にのうのうと入り込む。

――常識では考えられないことだ。

なのに私は怒鳴ることもできず、ただ早鐘のように鳴る胸を押さえていた。

(どうしてこの人は……こんなにも平然としていられるの? そして……どうして私は、拒めないの?)

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