桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて

第3章 突然の昇進

そしてある日、私のもとに一人の宦官が訪れた。

「柳才人。やりましたな!」

やけに嬉しそうな顔に、私は目を瞬いた。

「……えっ?」

「貴人への昇進が決まりましたぞ。」

「わ、私が⁉」

耳を疑った。

昇進? そんな話、これまで想像すらしていなかった。

宦官は満面の笑みを浮かべ、誇らしげに続ける。

「貴人は、妃募集で集まった方々の中でも中堅にあたる位。才人よりは上でございます。」

「そ、そうなの……?」

ようやく言葉を返すも、心は混乱していた。

なぜ、私が? 才人として取り立てられてから、これといった役目を果たした覚えはない。

かんざしを作って日を過ごすばかりで、皇太子様にお目通りしたことすらないのに。

「日頃の忠勤の成果でございます。」

宦官はにこやかに言い切る。

(忠勤……?)

どう考えても納得できない。

私はただ静かに、後宮の片隅で息をひそめていただけなのに。

胸の奥に、不安と疑念が渦巻いた。

(どうして……どうして私なの?)
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