桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
私は重苦しい心を抱えたまま、いつものように煌と会った。

「どうした? 顔色が悪いぞ。」

彼はすぐに私の異変を察し、そっと抱きしめてくれる。

その温もりに、少しだけ胸の重さが和らいだ。

「……私、貴人へ昇進したの。」

吐き出すように告げると、煌は眉ひとつ動かさずに答えた。

「よかったじゃないか。」

あまりに平然とした口ぶりに、思わず目を見開いた。

「煌は……平気なの? 位が上がるってことは、皇太子様に会うことも増えるってことよ。」

本当は怖かった。

もし皇太子に呼ばれ、夜伽を命じられたら。

――煌と過ごすこのひとときが壊れてしまう。

けれど煌は、そんな私の不安を見透かすように頬へ手を添え、穏やかに微笑んだ。

「貴人じゃ、まだ寵愛を受けられない。」

「……えっ?」

あまりに断定的なその言葉に、胸がざわめいた。

どうしてそんなことを言い切れるの?

私は答えを求めて彼を見つめたが、煌はただ優しく笑って、私を抱き寄せるばかりだった。
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