桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……参ったな。」

煌は小さく息をつき、私の耳元で囁いた。

「これでは、帰れそうにもない。」

胸が熱くなる。けれど私は、震える手で彼を引き離した。

「いいの。冗談だから。」

笑おうとしたのに、頬を伝うのは涙だった。

「小桃……」

煌が名を呼ぶ声に、余計に胸が苦しくなる。

「可笑しいよね。商人の娘が、妃になりたいだなんて。」

必死に軽く言ったつもりなのに、声は震えていた。

彼は黙って私を見つめていた。

その真剣な眼差しに耐えられず、私はたまりかねて彼の胸を叩いた。

「おかしいって……笑ってよ……!」

その瞬間、強い腕に抱きすくめられた。

「可笑しくなんかない。」

低く響く声が、涙をせき止める。

「煌……」

「小桃。君を――妃にする。」

耳元で囁かれたその言葉は、誓いのように胸へ深く刻まれた。

禁じられた恋のはずが、彼の言葉ひとつで未来が輝いて見えた。
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