桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
夜明けの薄明かりが差し込むころ、煌は静かに身を起こした。

「……煌、行くのね。」

声が震える。答えを聞きたくないのに、口から零れてしまった。

「ああ。」

衣を整えるその姿は、ひとりの男ではなく、この国を背負う存在のように見えた。

彼をこのまま戦場へ送り出すことなんて、本当はしたくなかった。

必死に心を抑えながら、私は棚を開け、一つの簪を取り出す。

「これ……父からもらったの。」

煌が振り返り、私の手元を見つめる。

「お父上から?」

「ええ。『皇太子様に寵愛された時に刺すといい』って……そう言って渡されたの。」

金細工の光を受けて、かんざしが朝の光にきらりと輝いた。

小桃としての自分と、貴人としての運命。

すべてがその一本に込められているようで、胸が締め付けられる。

「でも、私……煌に託したい。」

震える声で差し出すと、彼の瞳がわずかに揺れた。

受け取るべきか迷うように、深い想いを押し隠すように――。
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