桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「お願い……これを、私だと思って。」

震える声で告げ、私は半ば強引に簪を彼の掌へ押し込んだ。

煌はしばし黙り込み、やがて小さく息をつく。

「分かった。戦場でも、小桃を想うよ。」

その言葉とともに、彼の唇が私の額に触れた。

温かさとともに、涙がこぼれる。

「……ご武運を祈ります。」

そう告げるのが精一杯だった。

彼の背に、止めどなく溢れる想いをぶつけたいのに、言葉にできない。

煌は最後に私を強く抱きしめると、名残を振り切るように身を離した。

そして朝焼けに照らされながら、静かに部屋を後にする。

扉が閉まる音が響いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。

窓越しに見えた彼の背中は、ただの武人ではなかった。

堂々と王宮へ歩むその姿に、この国の未来が託されていることを思い知らされる。

「煌……」

小さく名を呼んでも、もう振り返ることはなかった。
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