桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
煌が去ってからの日々は、ひどく静かだった。

後宮は変わらず華やかで、他の妃たちは昇進や寵愛を夢見て浮き立っている。

けれど私には、その喧噪が遠い世界のもののように感じられた。

「……煌。」

名を呼んでも、返事は返ってこない。

毎夜のように抱きしめられ、耳元で甘い声を囁かれたぬくもりが、今はただ残酷に胸を締めつける。

あの人の腕に包まれた夜が、夢だったのではないかと疑ってしまうほどだ。

私は簪を作り続けた。

削るたび、磨くたび、煌の笑顔を思い出す。

けれど完成した簪を手にすると、涙で模様が霞んでしまう。

「帰ってきて……無事で……」

祈るように手を合わせても、遠征の報せは一向に届かない。

もしかして、もう二度と会えないのでは。

――そんな不安に夜毎苛まれた。

煌が不在の後宮で、私はただひとり。

心を寄せる相手もいない妃として、孤独だけが日を重ねていった。
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