桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……教えて下さい。」

司馬陽の声は静かで、けれど逃げ道を塞ぐように重かった。

「い、いえ……」

必死に首を振る私を、彼はじっと見つめる。

「力になります。柳貴人。」

その真摯な眼差しに、心が揺れた。

信じていいのか、罠かもしれない。

それでも胸に押し込めてきた想いは、もう堪えきれなかった。

「……将軍とは、幼馴染みです。」

司馬陽の言葉が零れ落ちた瞬間、自分でも信じられないほど肩の力が抜けた。

「誰にも言わないでください……実は、恋仲なんです。」

唇から溢れた真実に、頬が熱くなる。

司馬陽はぽかんと口を開けたまま固まっていた。

「……そうですよね。信じられないですよね。」

恥ずかしさに顔を伏せる。

けれど次に返ってきた言葉は予想外だった。

「いえ……ただ驚いただけです。あの将軍が女に熱を入れるなんて……」

小さく息を呑む。

(そう……やっぱり特別なのは私だけ……)

胸の奥が、羞恥と幸福でいっぱいに満たされていった。
< 43 / 148 >

この作品をシェア

pagetop