桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして十日後。

ついに金軍は勝利を手にして凱旋した。

(よかった……煌。)

皇太子の妃の身分では、出迎えの列に行けなかった。

だから私はただ、遠くの空を見上げて祈った。

無事で帰ってきてくれたことが、何よりも嬉しかった。

その夜。

静まり返った後宮に、聞き慣れた足音が響いた。

「……煌!」

姿を認めた瞬間、私は堪えきれずに抱きついていた。

彼の体温が確かにここにある――それだけで涙がにじむ。

「一日も早く会いたかった。」

低く囁かれた言葉に、胸が甘く震える。

「私も……!」

幸福に酔いしれるように腕を回したが、ふと思い出したことが胸を刺した。

「そうだ、煌……司馬陽に、私たちのことが……」

「陽に⁉」

煌の表情が一瞬で硬くなる。

その難しい顔に、不安が募った。

けれど彼はやがて深く息を吐き、私の肩を抱き寄せて言った。

「分かった。俺に任せろ。」

その言葉に安堵しつつも、嵐の前触れのような緊張を感じてならなかった。
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