桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして夜。

夜伽の番をする妃の世話を専門に担う侍女たちが、私の部屋を訪れた。

「柳妃様、湯浴みをしていただきます。」

有無を言わせぬ口調に連れられ、私は中央殿にある湯殿へと案内される。

普段は大浴場しか使わせてもらえないのに、今夜だけは広々とした湯船をひとり占めできるらしい。

「……こんな大きなお風呂、一人で使うなんて。」

湯面に揺れる灯りを見つめながら、胸が落ち着かなかった。

「お妃様、お綺麗でいらっしゃいます。」

侍女のひとりが、にこやかに香油を手に取る。

湯から上がった私の肌に、丁寧に塗り込めていく。

「今夜は桃の香りを、皇太子様がご所望だとか。」

「……桃の香り?」

思わず息を呑んだ。

桃――煌と出会ったあの庭。

一緒に果実を食べ、笑い合った時間。

その記憶が鮮やかに蘇り、心臓が強く打ち鳴った。

(皇太子様のため? でも私にとって、桃は……煌との思い出の香りなのに。)

胸の奥に、切なさと恐れが交錯していた。
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