桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして夜着をまとわされ、私はついに皇太子様の御殿の前まで連れて来られた。

格子戸の向こうからは、灯りに照らされた影が揺れている。

(煌……助けて……)

胸の奥で必死に名前を呼んだ瞬間、足がすくみ、その場に座り込んでしまった。

「お妃様?」

付き添っていた侍女が驚いて駆け寄る。

私は顔を伏せ、震える声で呟いた。

「ごめんなさい……具合が悪くて……」

「まあ、それは大変!」

侍女たちは慌ただしく顔を見合わせ、戸を叩くこともなく私を抱き起こした。

そして、あっという間に自分の部屋へと戻されてしまった。

寝台に身を投げ出すと、張り詰めていた緊張がほどけ、涙が頬を濡らした。

(私は……皇太子様を拒んでしまった。)

煌しか愛せない。

――その想いは揺るぎない。

けれど妃の務めを果たさぬ私に、後宮はどう反応するのだろう。

胸の奥に、安堵と恐怖がないまぜになって渦巻いていた。
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