桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
私は必死に司馬陽の袖を掴んだ。

「……止めてください。言わないでください。」

「しかし――」

「皇太子様の妃であるのに、他の男を想っているなんて……知られたら……!」

言葉にした瞬間、胸の奥が凍りついた。

それは後宮において許されぬ背信。

知られれば、どんな罰が待つか分からない。

震える私の背を、司馬陽は静かに撫でた。

「柳妃……あなたの怯えも分かります。しかし、逃げ続けることはできません。」

「……っ。」

「今夜、皇太子様をこちらにお呼びしましょう。その時こそ、あなたの想いを直接お伝えなさい。」

「……皇太子様が、ここに……⁉」

息が止まったように胸が縮む。

煌しか愛せない私が、皇太子に会うなど――。

「伝えるのです、柳妃。あなたが心を寄せているのは誰なのか。」

司馬陽の声は厳しくも優しく、逃げ場を与えぬ響きを持っていた。

私はただ膝の上で両手を握り締め、震え続けるしかなかった。

煌への愛と、妃としての義務。

その板挟みが、夜の闇よりも重くのしかかってきた。
< 53 / 148 >

この作品をシェア

pagetop