桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
その夜。

部屋の前に人の気配を感じ、胸が一気に高鳴った。

「柳妃。」

低く落ち着いた声が、戸の外から響いた。

血の気が引く。――皇太子様。

息を殺すように、私は膝を抱きしめた。

「昨夜は体調が優れなかったとか。」

戸越しの声は穏やかで、それでいて逃げ場を与えぬ響きを持っていた。

「本日は、どうだろうか。会えるだろうか。」

返事をしようとしても、喉が震えて声にならない。

皇太子様に会えば、もう煌のことを守れなくなる。

心の中で必死に「行きたくない」と叫んだ。

「柳妃……」

再び呼ばれた名に、胸が強く震える。

「……お許しください。」

震える声で、私は戸の内側から謝った。

静寂ののち、戸越しに低い声が返る。

「どうして謝る?」

胸が苦しくて、もう隠しきれなかった。

「私には……心を寄せている人がいます。」
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