桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
言ってしまった。

禁じられた想いを、ついに。

「……それは、誰か。」

皇太子様の声は静かだったが、戸を隔てても強い圧が伝わってくる。

「……言えません。」

唇を噛みしめる。

まさか金軍の将――煌だなんて言ったら、罰が下されるのは私ではなく彼になる。

そんなことは、絶対にできない。

「お願いだ、教えてくれ。」

懇願するような声音が、戸の外から響く。

心臓が痛いほど打ち、涙が溢れた。

「……すみません。今夜はお帰りください。」

必死に声を押し出し、床に額をつけた。

その瞬間、戸の外は静まり返る。

返事も足音もなく、ただ冷たい沈黙だけが残った。

私は嗚咽をこらえきれず、頬を濡らした。

(煌……どうか無事でいて。私は、あなたしか愛せないのに……)

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