桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして翌晩も、皇太子様は私の部屋を訪れた。

戸の外から、低く落ち着いた声が響く。

「柳妃。今夜こそ、開けてくれないか。」

胸が跳ねる。息を殺しながら、私は戸の内側から答えた。

「……すみません。体調が悪くて。」

しばしの沈黙。

だが、次に落ちてきた声に私は凍りついた。

「一目でいいんだ……小桃。」

「……っ!」

思わず息を呑む。

なぜ――どうして皇太子様が、私の名を。

「なぜ……私の名前を?」

戸の陰で震える声を絞り出す。

「名前くらい、知っている!」

皇太子様の声音には、焦燥と執念が滲んでいた。

その圧に胸が締め付けられる。

(これほどまでに……私を求めているなんて。)

恐ろしい。けれど、どこかで胸の奥が熱くなる自分がいる。

煌しか想えないはずなのに――。

涙が滲み、戸に額を押し当てる。

「……どうか、お引き取りください。」

声を振り絞ると、外の気配が静かになった。
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